2013年6月30日日曜日

アントニオ・ロペス・ガルシアの話





6月の頭に、渋谷Bunkamuraへアントニオ・ロペス展を見に行ってきました。画集では学生の頃から見ており作風を知っていましたが、本物を目の当たりにするのは初です。

彼の有名な作品が分類別に何点か展示されており、なかなか見ごたえのあるものでした。
今回見て感じたことを書きます。


ウィキペディアには、「他人がどういおうとすべて私の作品は絵画である」と掲載されていますが(信憑性は問われます)、作品を観察していると彼はやはり本質的には彫刻家だなと思います。

作品には建造物(俯瞰の都市風景)、インテリア家具、人体などが頻繁に登場します。それらを詳しく、製作過程を含め視ていると、造形物の骨格へ尋常ならざる意識が働いています。二次元である画布に三次元である立体物を再構築する気概で描いています。

もう少し踏み込んだ考え方をすると、彼の作品に登場するモチーフには重力が働いています。つまり表現されたビルにはその重みがあり、大地にはそれを受け止めるだけの抵抗感が作用しています。例えば、彼の描くマドリッドの都市風景はひとつ一つのビルに重みとその位置(遠近)がきっちりと備わっており、カメラではなく人間の目で見た臨場感を味わうことができます。

特にこのような重量の感覚は、生粋の絵描きには備わりにくいものだと私は考えています。絵描きたちはモチーフの雰囲気や遠近には思いを巡らしますが、重量、重力にまで気が回っている方は私のみたところあまりいません。しかし彼は彫刻作品も作ります、そこが肝心な点です。普段から立体物と格闘している者は三次元である構造物を成立させるための「重量とその重心のあり方」に強い関心があり、と同時に、絵描きには備わりにくい立体作家としての専門知識があります。

おそらく彼は無意識のうちに、その培われた彫刻家としての表現、すなわち物事の解釈を敷衍して平面作品へ当てはめているのだと思います。それによって今までのリアリズム系の平面作家たちが成し得なかった、あの迫力ある、重力が作用している絵画空間が誕生したのだと思いました。


今回は馬場俊光が担当させて頂きました。



ところで、絵肌を至近距離でまじまじとみて察しましたが、彼はけっして器用ではありません。しかし「表現したいものを純粋に追いかける」猪突猛進というか、妙に正直なところに大変好感がもてます。そんなところが世界的に現代リアリズムの作家として愛されている要因の内のひとつではないかなと感じます。

今回の展示を見て、作家は自身の感覚に正直でなければならないな、と改めて思いました。


おしまい。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。